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2005/06/12

スパイラル3題

「世界」2005年7月号から気になった言葉などをメモしてみました。

ノンフィクションライター・島本慈子氏の連載『戦争で死ぬ、ということ』第4回「フィリピンの土――非情の記憶が伝えるもの」より。

戦争とは狂気への扉である。わが身を殺すとする攻撃を受ければ、誰しも敵の殲滅をねがう。殲滅をねがった時点で心のブレーキは壊れている。戦場という暴力装置のなかに置かれたとき、人間は本来のその人ではなくなる。

 戦争が生み出す憎しみのスパイラル。人間が残虐になる狂気の実記録を丹念に引いてきています。ベニヤ板の特攻艇マルレ部隊の少年兵を見た阿利莫二、『レイテ戦記』を記した作家・大岡昇平といった、実際の戦場の生き証人も他界してしまったいま、死者の証言を聞き、戦場の狂気を知ることなしに、歴史や国際政治を語る資格はないと思わされます。
 日本が60年前の敗戦・降伏から唯一勝ち得たものは自由と民主主義、不戦の誓いではなかったのではないでしょうか? それこそが歴史を肯定的に位置付けることであり、もっとも進んだ人類として国際政治に活かす日本外交の本領ではないかと思います。

外務省元主任分析官・佐藤優氏の短期新連載『民族の罠』第1回「『大きな物語(東西冷戦)』終焉後のナショナリズム」より。同氏著『国家の罠』の中でナショナリズムの特徴として二点を強調していることを自ら引用紹介しています。

ナショナリズムには、いくつかの非合理的要因がある。例えば、『自国・自民族の受けた痛みは強く感じ、いつまでも忘れないが、他国・他民族に対して与えた痛みについてはあまり強く感じず、またすぐに忘れてしまう』という認識の非対称的構造だ。また、もうひとつ特筆すべきは、『より過激な主張がより正しい』という法則である。国際協調主義と両立する健全な愛国主義(パトリアティズム)と自国中心・排外主義的ナショナリズムの境界線はひじょうに脆い

 佐藤氏は日本が排外主義的ナショナリズムのスパイラルに入りつつあるとの危惧を抱いています。加えて氏は、米国のネオコンの性格付けも試みて、「民族」に目覚めたトロツキストと評しています。私の筆力をとってしては平たく表現するのが難しくここでは紹介しませんが、ネオコンのもつ前衛思想体質に危険な匂いを覚えている点には共感できます。

東京国際大学助手・鈴木謙介氏の「若者は『右傾化』しているか 左派の歪んだ写し姿」より。

アメリカの憲法学者キャス・サンスティーンが注目すべき分析を提供している(キャス・サンスティーン著、石川幸憲訳『インターネットは民主主義の敵か』毎日新聞社)。彼によれば、インターネットには、自分と同意見の人間ばかりが集まり、もともと持っていた主張を強化させてしまう「集団分極化」の傾向が強く見られるのだという。

ネット私刑をめぐって生じている現象も、ある種の正義感を共有する人々が、サイバー・カスケード=祭りに乗じて、あるいは乗せられる形で、人々が自身の価値を現出させた結果生じたものだと見なすことができないだろうか。何の関係も利害もないが、己の正義感に照らして「許せない」対象に対し、一斉に糾弾を行うのが、ネットでの私刑の特徴なのである。

 鈴木氏は上記後段について「学級会民主主義」と呼び、それがネット私刑=他者への不寛容の原動力になっていると見なしています。まさにサイバーリンチのスパイラルとでもいいましょうか? テレビ・新聞・出版など既存の商業マスコミでは売れないニュースでも、ネットではどこからか出てきて知ることができるメリットがあります。ですが、論争の流儀が未熟なのは確かだと思えます。

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コメント

「学級会民主主義」、まさに言い得て妙ですね。
与えられた情報を吟味、精査することもなく(都合のいい部分だけ)取り込んで、思想の異なるものに対しては「議論」を前提としない攻撃的言辞をもって処する……。
若年層の多く集う大型掲示板など見ていると、暗澹たる気分になることがよくあります。
相互理解にいたるメソッドの構築が未熟なまま、皮相だけの「愛国心」をまとった子どもたちが、そのまま大人になるかと思うと……。

ネットは、「同好の士」を見つけるのにうってつけのツールですが、同じベクトル上に思想的「集団分極化」、さらに言えば「サイバーリンチ」があるわけで。
小学生からネットに触れるのが当たり前になっている昨今、何らかの対策が早急に必要だと思うのですが、どうしたものやら……。
最後のほうは、まったくエントリに関係のない話で申し訳ありません(まったくだ)。

投稿: 馬熊 | 2005/06/13 00:56

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